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フィリピン台風災害、対照的な米中の対応

記事の概要

オーストラリアのロウィー研究所の研究部長ロリー・メドカーフ(Rory Medcalf)氏は、台風30号(Haiyan)によってフィリピンで発生した大災害に対するアメリカと中国の対照的な対応が、両国の東南アジアにおけるプレゼンスで明暗を分けたと分析した。

中国が今回のフィリピン支援にあたって当初発表した支援額は10万ドルというわずかなものであり、国際社会の批判を受けて後日160万ドル相当の物資提供を決めた。中国はフィリピンとの間で領土問題を抱えており、フィリピンに対して反発を強める世論に配慮したものとみられる。

これに対してアメリカはいち早く空母と海兵隊を現地に派遣し、物資支援を行った。また、同盟国である日本も過去最大規模の自衛隊員を派遣し、アメリカと協同で救助と支援にあたった。

オバマ大統領が今年10月に開催された東アジアサミットを欠席し、アメリカの東南アジアでの影響力に疑問符が付いたが、今回のフィリピン支援でその疑念を払拭した。これに対して中国は外交問題を理由にフィリピンに対する人道支援に二の足を踏み、アジアの大国としてのリーダーシップを示す機会を無駄にした。

元の記事を読む→ 【2013年12月17日:WEDGE Infinity

外国の人の見方は貴重ですよね

WEDGE Infinity

記事の内容に入る前に。今回の記事は「WEDGE Infinity」というウェブマガジンに掲載されていたものです。不勉強で今まで存在を存じ上げておりませんでした。

その中に「世界潮流を読む 岡崎研究所論評集」というコーナーというか連載があるのですが、オーストラリアの研究者の方が書かれた記事が、今回こちらのコーナーで紹介されたわけです。

我々は普段、日本のメディアが伝える情報にしか接していません。日本のメディアはどうしても日本の立場、日本の見方で物事を伝えます。しかしそんな情報ばかり見ていると考え方が偏ってきますよね。世界にはいろいろな見方があるわけで、いろんな見方に接することで本当の真実が見えてくるのだと思います。

しかし、我々普通の日本人にはそういった海外の見方に触れる機会がなかなかないわけで、今回のように海外の研究者の分析などを紹介していただけるのはうれしい限りです。WEDGE Infinityさん、応援してます~!

オバマより米軍!

さて、本題です。メドカーフ氏の分析ですが、外国の人の見方は貴重とか言っといてなんですが、まぁ、誰が見てもそう思うよなぁ、と。笑)ほんじゃ、海外の見方とか言うなよ~って話ですが。まぁ、それは置いといて。

おもしろかったのは、この分析に対する岡崎研究所さんのコメントです。まず、今回の米軍の行動が、オバマ大統領の東アジアサミット欠席を補ってあまりあるものと評価しています。

岡崎研究所さん語りて曰く、「オバマが東アジアサミットに出席していたとしても、中国に配慮して、あるいは定見の無さゆえ、あまり内容のある発言をすることは期待できませんでした。結果論になってしまいますが、オバマのアジア歴訪は、中止になって、かえって良かったというべきかもしれません。」

しこたま笑わせてもらいました。ギャグのセンスがある研究所のようです。

中国は狭量なのか?

そして、お笑い研究所、失礼、岡崎研究所さんですが、中国のフィリピンへの支援が少なかったことに対して、「中国の対フィリピン援助の少なさが、中国のフィリピンに対する懲罰的な意味を持つとするならば、驚くべき狭量さという他ありません。」と述べてらっしゃいます。

また、せっかく中国の存在感を見せるチャンスだったのにその機会を失したことに対して、「インドネシアの地震と津波、東日本大震災の例から見て、中国では、人道援助が他の考慮に優先するという観念が欧米や日本ほどは強くないのではないかと思います。」と論評されているのですが。

ここについては僕はまったく逆の考えです。中国共産党の上層部はスーパー頭良い人揃いです。人間として良い人かは置いといて、頭はむっちゃ良いです。そんな彼らが、今回のフィリピン支援が中国にとって存在感を示す絶好の機会であることに気付かないわけがありません。

また、インドネシアの津波、東日本大震災、そして自国で起きた四川大地震を通じて、災害被害に対する国家としての支援が、自国の国際的価値を高めることを共産党首脳部はここ数年で十二分に学んだはずです。

反中、嫌中は置いといて、彼らを侮ってはいけません。彼らは間違いなく優秀です。フィリピンへの支援をしなければアメリカがプレゼンスを高める。中国がアメリカに替わる存在感を示す絶好の機会を失うことになる。そんなことは百も二百も六万八千五百七十三も承知だった。しかしできなかった。そう考えるほうが妥当ではないでしょうか。

最大の危機要因は国内にある

ではなぜできないのか。原因はやはり世論でしょう。

香港のツアー客のバス

何年前でしたでしょうか。マニラに観光旅行に来ていた香港のツアー客のバスが襲撃されて死者が多数出たって事件がありましたよね。あれで中国のフィリピンに対するイメージが落ちました。

そしてスプラトリー諸島の領有権の問題が起こりました。これは致命的でした。中国から見たらフィリピンなんて鼻くそみたいな国です。憎っくきではあるけど一応大国の日本相手ならいざしらず、鼻くそ坊主が偉大なる中国様に楯突くとは何ごとだ!っと。プライドを傷つけられた中国人民の反フィリピン感情は半端ない状況であります。

その国民感情の中でフィリピンに対して支援ができるのか? 共産党中央は大規模支援も考えたのだと思います。ただ、国民がどう反応するかが「怖かった」。世論を読み取ろうとしました。

それが岡崎研究所さんも指摘してらっしゃる人民日報系の海外情報誌である「環球時報」に掲載された「中国が方針を速やかに転換しなければ大きな損失を招くであろう」という社説です。

環球時報

この記事は僕もリアルタイムで読みましたが、びっくりすると同時にピンときました。環球時報は超ド級タカ派のメディアです。中国ウォッチャーの間では「中国の産経新聞」と呼ばれています。笑) その環球時報が「みんなぁ、フィリピン助けてあげようよ~」なんて記事を出す。まずあり得ないことです。

ですが、中国のメディア、それも人民日報系ですから、時として中国政府の観測気球として使われます。この時もそうだったのでしょう。フィリピンへの支援はいかがだろうか?とアドバルーンを上げてみた。そして、中国国民の反応は、その提案に対してノーであった。故に共産党中央はフィリピンへの大規模支援を断念せざるを得なかった。これが真相なのではないでしょうか?

中国にとっての最大の敵、いや、共産党にとっての最大の敵は、他ならぬ中国人民なのかもしれません。それに比べれば、よほどのことがないと反政府運動なんて起こさないフィリピン人たちを相手にするフィリピンの政治家たちって、中国の政治家から見れば楽な商売なんでしょうね~w